トーリーからレイバーに政権交代の英国

ロンドン時事】4日投票の英下院(定数650)総選挙は5日、開票がほぼ終了し、スターマー党首率いる労働党が単独で過半数を大幅に上回る議席を得て地滑り的勝利を果たした。2010年から政権を担う保守党は大敗し、14年ぶりの政権交代が実現。スターマー氏は同日、バッキンガム宮殿でチャールズ国王と面会、新首相に就任した。

ちょっと遅れましたが、英国で政権が遂に交替しましたね。いま使っているテキストのひとつが、英国事情を扱った2018年出版のものということもあり、英国にはずっと関心を寄せてきました。そして英国事情について発言するとき、私は徹底してスコットランド寄りの立場から発言してきました。

個人的に思うのは、ここまで保守党政権が、よくぞここまで保ったものだということです。本留学直前の2010年5月に労働党から保守党に政権が移り、翌年の帰国直前にはイングランド全土での反政府デモが起こって私のもとにも現地情勢を問うメールが数件、届きました。それに対して、修士論文を書きながら

「デモはイングランド事情です。当地エディンバラは現在、国際フェスティバルの祝祭で多忙につき、デモの余裕はありません」

と返信をしたためたものです。同時に思ったのは、労働党に比べて保守党は、どうも政治が拙劣だなぁ・・・ということでした。その労働党の一大拠点がスコットランドであることから、当地を票田とし得ない保守党の対スコットランド認識は、およそ賢明からほど遠い。

私の英国の国内情勢観は、河村貞枝先生のご研究と自身のスコットランド体験を併せて軸としてきたものです。とりわけ2014年のレファレンダムから2020年のブレグジットまでの事情は、この軸に立脚すると、実にスッキリと見えるものでした。

さて、それでは労働党が政権首班の地位を奪還したいま、英国はどうなるのか。

「保守党政権が続く限り、スコットランド分離は不可避」

と思ってきました。その事情は、どう動くのか。またエディンバラに帰って情勢を眺めたくなってきました。

第74回西洋史学会参加記

6月9日更新

今年の西洋史学会の会場は、東京外国語大学です。場所は府中で、

「どうやって行くの?」

というところから始まりました。場所を検索すると、新宿から1時間離れたところです。じゃあ近場で泊まろうかと思って探すと、宿が全然無い。そうすると、新宿あたりに宿を取る方が安上がりなのです。ところが新宿はじめ東京都内も宿がえらく高い。仕方が無いので、風呂が広いカプセルホテルを選択することにしました。

東京までは、懐かしの千葉中央バスの夜行バスで、上野まで出ました。私の京阪時代の運転手さんがまだ乗務しているのは、嬉しい限りです。疲労とを何処まで持ち越すのかが懸念事項でしたが、比較的よく眠ることができたので、この点は杞憂に終わりました。やや眠り足りない分は、下車後に山手線に乗ってぐるぐる回って仮眠を取ることで解消しました。

わざわざ夜行バスで東京に出たのは、神保町の古本屋を巡る時間を取るためです。府中に行く時間も勘案する必要があるので急ぎ足になりましたが、それでも2冊ほど本を調達できたのは幸いでした。

腹ごしらえをして、さて府中へ・・・というところでJR中央線が事故による遅延で、冷や汗をかきました。幸い、大幅な遅れには見舞われずに済みましたが、代わりに西武多摩川線に乗り換える武蔵境駅で乗った電車は、西洋史学会ご一行様御用達列車と化していました。いやぁ緊張した。

東京外国語大学に来るのは初めてです。手弁当でここまで来たのは、こんな機会でもなければ訪れることはないだろうというのが一点、初日のシンポジウムが面白そうだというのが一点、そして2日目に知り合いの報告が目白押し(ここは目白ではないですが)というのが一点、本屋さんの出店目当てというのが一点、そして最後の理由は、この大学の学長がオスマン帝国史の専門家である林佳世子氏であるというものでした。実際、初日は林氏が開会の挨拶をされており、氏の著作を手許に持つ身としては、なんとなく満足しました。

さて、私が聴講したのは、以下の通りです。

5月18日(土)

記念シンポジウム「感情史の課題と展望」

5月19日(日)古代史部会

個別論題報告

 

小シンポジウム1「ペルシア戦争の受容―古代から現代まで」 

 

小シンポジウム2「古代ローマ世界における農業と社会:新しい時代の多分野共同研究に向けて」 

 

以上、大変に充実した2日間でした。特に初日のシンポジウム「感情史」というのは新しい研究主題ですので、どのように展開するのか、あるいは古代史の分野ではどのような形で取り込んでいくのか、考えながら報告を聞いていました。

残念ながら最後まで会場にいることができず、あと少しというところで会場を抜け出し、東京駅で旅の知己である漫画家・まえだなをこさんが紹介してくれたPさんと一献酌み交わして新幹線に飛び乗ったのでした。

さて、西洋史学会会場で買った本を紹介:

すいません、実は未だ持っていませんでした。この機会に、と思いまして。


大阪の高齢者大学校などでお世話になっている、向正樹さんの御著書。重厚なこしらえに、買ったは良いモノの、びびっております(笑)。

 

下鴨劇場新歓公演「嘘屋」観劇記

5月25日更新

大学の学部生時代に、旅以外で一番時間と力をつぎ込んだのは、演劇実験場下鴨劇場での活動でした。・・・なにしろ公演前1週間の「仕込み」の時には、ほぼ舞台に缶詰です。授業もゼミも休んでしまうという状態で、指導教員のW先生に、何度叱られたことか(反省しております・・・トホホ)。私は後から音響担当として招ばれた人間ですが、私の世代が旗揚げということで、いまでも繋がりは続いております。今年の1月には、そのメンバーの一部と初詣で京都市内を歩いたくらいですから、縁は切れておりません。

その演劇実験場下鴨劇場は、2021年3月、いったん活動を終了しました。しかしすぐに後を継ぐ学生さんが現れ、復活を遂げました。このときには大喜びしたモノです。しかし、芝居を見に行く時間はなかなかとることが出来ず、ここまで来てしまいました。

未だ授業が本格的に始まる前ということもあり、未だ時間がとれます。かくして今日、思い切って府大まで芝居を見に行きました。今日は新歓夜祭の日で、公演もその一環を為す催しです。公演場所のクラブBOX街練習場に、時間ギリギリに駆け込むという格好悪いことになってしまったのはご愛敬でしょう。30分ほどの短い公演を、じっくり観劇しました。「伝統」と呼ぶにはささやかかもしれませんが、私がその一端に関わったモノが受け継がれるのを見るという幸せを、かみしめる一瞬でした。

公演が終わった後、後輩さんたちと少し話をすることが出来ました。昨年度は非常勤講師として授業を半年だけ受け持ったこともあり、どうもそのときの気分が抜けないのでしょうか。「あの授業は面白いよ」などという話を手短にして出てから、ハタと、あることに気がつきました。

今日は、下鴨劇場を復活させてくれたお礼を、OBの一人として言いに来たのでした。大事な用事は、しかし、また次の機会に持ち越すしかなさそうです。持ち越す機会があるのは、しかしながら、幸せなことでしょう。そんなことをしみじみと感じる一日でした。

ゲストハウス大阪&ライムバンド合同花見@桃ヶ池公園

5月6日更新

今年のゲストハウス大阪の花見会は、ライムバンドと合同で、大阪の桃ヶ池公園で行われました。ゲストハウス大阪の花見会への出席は恒例ですが、なんと乗っている列車が車両故障を起こしてしまい、当初予定より30分以上遅れてしまう事態は想定していませんでした。ということで、相当に苛立ってしまいましたが、なんとか桃ヶ池に到着して、満開の花を見ることができました。

第21回日本ビザンツ学会参加記

4月2日更新

この春は、研究会であちこち動き回る日々です。今回は、岡山大学で行われた日本ビザンツ学会の第21回大会に参加しました。それも、青春18切符を使って、新快速を乗り継いでの岡山入りです。会場でこの話をすると他の参加者に唖然とされたものですが、実は乗り継ぎさえ上手くいけば、京都駅から3時間強で岡山駅に着くのです。

姫路と相生で乗り継ぎのためにダッシュする必要がありますが。

ビザンツ、分野違いませんか・・・?」

会場では、開催校・岡山大学の仲田さんをはじめとする参加者の皆様が驚くやら呆れるやらといった反応でした。しかし、岡山にはこの3年ほど

「行く行く詐欺」

を連発していたという不義理がありますので、この機会にそれを解消したという次第です。

さて、研究会の日程および報告題目は以下の通りです。

3月28日

記念講演

自由論題報告

3月29日

自由論題報告

  • 南雲泰輔(山口大学)「410年のローマ市劫略をめぐって」
  • 貝原哲生(大阪公立大学)「7-8世紀エジプトにおける修道院とその社会的機能に関する一考察―上エジプトの事例から」
  • 清水悠佑(早稲田大学)「ラヴラ・レクショナリーの聖者暦研究」
  • 小田昭善(大阪府立学校)「中期ビザンツにおける司法官クリテースの成長と変化(仮)」
  • 福田耕佑(大阪大学)「中世ギリシア口語詩『エロトペグニア』における恋の戯れ-現代ギリシア文学史の 関係と作品の分析を中心に(仮)」

報告者・内容とも、非常に充実した研究会でした。

ちなみに岡山訪問の目的は、学会参加もさることながら、今回の事務局担当の仲田さんと、オリエント美術館学芸員のS氏(ササン朝ガラス専門)を引きあわせ、ことのついでにビザンツ研究者の皆様と知り合いになっていただくというのがひとつ。もうひとつは、岡山大で教鞭を執るご・・・旧友のF女史に会うというものでした。さまざまな記録をあたってみると、F女史に最後に会ったのは2017年の夏、どういうわけかこの7年の間に彼女の御父君と知り合いになる機会も得ました。29日には、そんな四方山話に花を咲かせながら昼食をともにしたのでした。一応、両件ともに所定の目的を果たしたことで、この3年の不義理を関係各位にはご容赦いただけるもの・・・と願いたいところです。

Dr.関塾桂校閉校慰労会

非常勤講師として教壇に立つことになった2016年は、個別指導塾のアルバイト講師としての仕事を始めた年でもありました。大学と中高生相手の授業を同時にやるということは、必然的に双方を比較しながら教育ということを考えることにつながります。

長く続けていると、かつての教え子と同僚になるということもありますし、あるいは大学構内で遭遇するということだってあります。今年の箱根駅伝では、教え子が走るということまで目にしました。義理人情もあります。そんなこともあって、非常勤講師稼業が軌道に乗ってきた後も塾講師を辞める気分になかなかなれず、8年が経過していました。

この2年ほどは塾が本格的に不安定でしたが、本年度に入ってから塾を閉める話が本格化しだし、昨年末にその方向が決定しました。私の最後の授業は2月16日、今回のヨーロッパ行に出発する4日前でした。最後に受け持った子の一人が、親御さんと一緒に大学の合格報告に来てくれました。そして今日、古参の講師4人で最後の慰労会となった次第です。

私に多角的な視座を与えてくれた皆様、ありがとうございました。これから桂に行くことも少なくなるのだろうなぁ。

 

第29回ヘレニズム~イスラーム考古学研究会参加記

3月30日更新

旅から帰ってすぐ、今度は金沢です。もともと今回のヨーロッパへの春旅の日程は、このヘレニズム~イスラーム考古学研究会の日程が明らかになってから決めたのですが、報告者の名前が一向に増えないので、

「12月に行った報告と同内容であれば、できます」

と申し出たところ、帰国直後の報告が決まりました。

さて、帰国したのは3月8日、一度帰宅した後、その日のうちに金沢に向かいました。青春18切符でいったのですが、なかなか金沢が遠かった。乗り継ぎが上手くいかず、近江塩津で30分近く列車待ちをしたのが・・・他の駅ならいざ知らず、近江塩津は何もないのです。金沢に着いたのは十時近くでした。

開けて3月9日、今回の会場である、石川県文教会館に向かいます。帰国して驚いたのは、フランスやスコットランドより日本の方が寒かったことです。とくに金沢は、到着と同時に雪が降りだし、この日は溶けかけた雪の上を歩いていくことになりました。会場に着くと、世話人の金沢大学・足立先生以外に、準備に携わる人員がいないという、何とも寂しい状況でした。慌てて準備をお手伝いしていたら、なんと本日の研究会で使用するPCとして私のPCを提供することに。時期が悪かったのかなぁ。

さて、本日の報告題目と報告者は、以下の通り↓

  • 柴田広志 「秘境」サウジのナバテア岩窟墓群~マダーイン・サーリフおよびサウジアラビアの最新情報~」Nabataeans' stone-carved tombs in Saudi Arabia and the latest information for Saudi Visitors
  • 田辺勝美 「カニシュカ1世銅貨の弥勒仏坐像考:ガンダーラ弥勒菩薩像は存在したか?」Maitreya Buddha on Kanishka I’s bronze coins revisited—Did the Image of Bodhisattva Maitreya exist in Gandhāra?—
  • 田辺美江「胴部に仏像がついた青銅の壺」A Bronze Vessel with Buddha images on the body
  • 井上 豪「キジル第38窟『バルコニーの奏楽天人』の図像について」About the iconography of Qizyl Cave 38 “the Muses on the Balcony”    
  • 丸小野壮太・佐藤育子「パブリックヒストリーから考える開かれた古代地中海世界史研究:市民協働型の歴史実践」“Open Studies on the Ancient Mediterranean World History” from public history: a citizen-collaborative historical practice
  • 佐藤育子・丸小野壮太「アッシリア史とフェニキアカルタゴ史から考える開かれた古代地中海世界史研究」Open studies on the Ancient Mediterranean World History in the view point of Assyrian History and Phoenician-Punic History
  • 榮谷温子「現在の高校の社会科でイスラームはどのように教えられているか」(仮題)How is Islam currently taught in high school social studies?

なんと私が先頭打者です(苦笑)。報告前日に道中つらつら考えてふと気がついたのは

「マダーイン・サリーフは、西洋古代史・古典学の人にとっては『秘境』だが、考古学の人にとっては秘境ではない」

ということでした。サウジが行きにくいのは、私のような個人旅行者にとっての話です。現地で発掘調査に参加している日本人考古学研究者は、必ずしも珍しくはないのです。聴衆の少なさ(参加者は報告者+主催者くらいでした)も手伝ってか、12月の古代史研究会の時に比べると落ち着いた雰囲気の中での報告でした。そのぶん私も、報告をしながら聴衆に向かって質問を投げかけるなど、肩肘の力を抜いて話すことができたと思います。まぁ、私と続くお三方の発表時間が押してしまって、最後の3本は端折りながらの報告となってしまって、大変に申し訳なかったと反省しております。

研究会の後は、懇親会でした。この「当たり前の構成」が、なんと嬉しいことか。特に最終報告者のはるこ先生とお会いするのは2019年以来、ましてや懇親会の場で盃を酌み交わすのが初めてでもあり、大変に楽しいひとときでした。