紹介 内田樹著『私家版 ユダヤ文化論』

私家版・ユダヤ文化論 (文春新書)

私家版・ユダヤ文化論 (文春新書)

ブログに移行してから、書籍紹介がやたらに増えた。「はまぞう」の所為かな・・・
この本は、id:t-kawase先生が以前紹介していた本である。


さて、本書は、
「できるだけ『わけのわからないこと』を書きたい」
という、およそ新書を書いているとは思えない告白を、著者が堂々としている。
おそらく、
ユダヤ人以外の見るユダヤ人像」
のみを整理しているのならば、本書は非常にすっきりと分かり易いままで終わったのであろう。だが、著者はそれだけでは終わらない。
ユダヤ人自身が、自分たちを如何なる目で見ているのか」
という問題にまで、果敢に切り込んでいこうとする。そうする事によって、ユダヤ人からも納得を得る事が出来る『ユダヤ人論』を書こうとしているからである。
著者がそうした切り込み方をなし得るのは、彼がレヴィナスという、優れた知識を持つユダヤ人を師に持っているが故になし得る事であり、またそれを強烈に意識するからこそ、
「自分の立場が公平なものではあり得ない」
と言いきってしまっている。


そのようなわけで、非常に多くの問題提起に富んだ本だが、一読してみて、私にはひとつ、気になる事があった。
著者が、極めて巧妙に、『イスラエル』という問題を避けて通っている事である。
無論、ヨーロッパの知的伝統の中でのユダヤ人問題を論じているわけだから、それはそれで正しいスタンスである。また、ユダヤ人排斥論とイスラエルへの批判は全くの別物だから、やはり著者がイスラエルという問題を論じていないのは、妥当であるのは確かである。
それでも、私としては、著者に訊いてみたくなる。
「この本で書かれている事を踏まえて、『イスラエル』というものを、どのような存在であるとお考えになりますか?」
と。