京都新聞の『古代文化』紹介記事

闘病中に執筆、遺作掲載 古代ギリシャ研究70年、故角田文衞さん

 今年5月に95歳で死去した古代学協会(京都市中京区)の角田文衞・名誉会長の最後の論文「ヴァフィオの墳丘墓とその遺宝」が同協会機関誌「古代文化」最新号(第60巻第2号、季刊)に掲載された。学生時代から追求した愛着の深いテーマで、闘病生活の中でも懸命に執筆を続け3月に完成、掲載を心待ちにしていたという。

 角田さんは、学問の垣根を越えた「古代学」を提唱し、協会を設立。平安京のほか古代エジプトなど海外の発掘も手がけ、紫式部をはじめとする宮廷女性など幅広い分野で業績を残した。

 ヴァフィオ墳丘墓は、ギリシャのスパルタ近郊にある。古代ギリシャ文明に先立つミケーネ文明の墓(紀元前1450年ごろ)で、牛を描いた写実的な浮き彫りのある2個の黄金杯が有名。

 論文で角田さんは、墓の構造や遺物を検討し、王権の実像を考察。「スパルタ人が侵入する以前に栄えたアミュクライ王国の王墓ではないか」と推察している。また京都帝国大在学中の1936年、恩師・濱田耕作からヴァフィオの黄金杯を課題として与えられ、リポートや論文執筆に取り組んだ青春の思い出や40年に初めて現地を踏査した様子も記している。

 協会によると、角田さんは10年ほど前から現地を再訪したりギリシャ語の調査報告書に目を通したりして、精力的に取り組んだが、病状の悪化で視力が低下。口述筆記や原稿の整理、ギリシャ語の確認作業などで関係者の協力を受けて完成にこぎつけたという。

 西井芳子常務理事は「掲載誌をお見せできなかったのは心残りだが、完成させることができ、ほっとしている」と話している。

 「古代文化」最新号は定価2500円、送料130円。問い合わせは同協会TEL075(252)3000。
京都新聞11月6日付夕刊】

この論攷が世に出るにあたって、ささやかながらお手伝いをさせていただいた身としては、こういう紹介記事を見ることは感無量である。以前も本ブログで触れたことがあったが、『古代文化』誌の再出発にあたって書評を書かせていただいたこともある。この関係で角田先生のご自宅にうかがったこともあるが、書籍の量とカヴァーしている言語領域の莫大さに、思わず尻込みしてしまったものである。少しでも、この領域に近づけるのか・・・まだまだ研鑽の足り無さを思わざるを得ない、今日この頃である。
正直な所を告白させていただくと、ギリシア本土の古典期、およびそれ以前の歴史については(関心が薄いと言うこともあって)疎いといわざるを得ない私にとって、この論攷のお手伝いをさせていただいたことは、相当に勉強になった。近代歴史学の草創期、「英雄たちの時代」と呼ぶべき時代に、特にギリシア考古学という舞台で活躍した巨人たちの活動を概観出来たからである。この仕事がなかったら、岡山市立オリエント美術館の特別展への理解は、はるかに薄っぺらいモノとなったであろう。そういう意味でも、非常に勉強させていただいた仕事だった。
改めて、巨星・角田文衞先生のご冥福を祈るものである。