- 作者: 奈良本英佑
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2005/07/14
- メディア: 単行本
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本書は、その記述の大部分を19〜20世紀、特に20世紀のパレスチナ情勢に置いている。このスタンスの取り方から明らかであるが、著者は、パレスチナ情勢は19世紀以前にさかのぼる問題ではないとの立場であり、従ってそれ以前の記述には殆ど意を用いていない。
著者は、アラブを無前提にかばい立てしたりしているわけではない。シリア・エジプト・ヨルダンといった周辺諸国がそれぞれの思惑によってパレスチナを「食い物」にし、それによってパレスチナのアラブ住民が翻弄され痛めつけられた様子を切々と書き連ねている。
イスラエルとパレスチナ・アラブの情勢を同時に描写しつつ、書籍のタイトルを『パレスチナの歴史』としていることで、著者の基本的な立場や思考は明らかであろうから、これについて長々と語る必要はないだろう。彼の基本的なスタンスは正しい。
とりわけ圧巻であるのは、オスロ合意の構図を
「勝者たるイスラエルと、敗者たるアラファート・PLOの間に結ばれた、降伏条約」
と断じている点であろう。当時は「平和への第一歩」とみなされた(不詳、私もそう思った。不明を恥じつつ此処に告白する)この合意が、実は「和平」などからほど遠い、次なる悲劇と破滅への第一歩だったという事を、同時期に合意に反対した穏健派(過激派ではない!)の言葉を拾いつつ、明確に断じている。
と、此処まで読んで、慌てて開いた広河隆一氏の『中東 共存への道』の、オスロ合意の光景を見ながら広河氏が思ったという、こんなフレーズが飛び込んできた。
「なぜこんなところまで後退しなければならないのか」(154頁)
行間からにじみ出る、書き手の怒りと呻り声は、奈良本氏にも広河氏にも共通するものである。
広河氏の一連の著作と並び、中東問題を研究する者にとっては必読、不可欠の一冊であろう。
オスロ合意以降の箇所は、私も怒りを持ち、震えながら読んでいたから、指が止まらなかった。周りの人は、何なのかと訝っていたのではないだろうか。
最後に一言だけ。
行間から血と泥と叫びが溢れだしてくるような、珠玉の名著である。中東が「遠い」と言っている方に、是非とも一読いただきたい。